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鈴木ケイナ個展「覚えていることと忘れられないことの違い」 インタビュー(地域貢献スペース/立川)

  • t-zaidan
  • 17 時間前
  • 読了時間: 8分

更新日:2 時間前

多摩信用金庫2階ギャラリー(地域貢献スペース)では、若手アーティスト部門の審査を通過した4人目の作家、鈴木ケイナによる個展「覚えていることと忘れられないことの違い」を2026年1月16日(金)まで開催しています。


出品作家の鈴木さんに今回の展覧会や作品制作などにまつわるお話をうかがいました。

 

(聞き手・文:たましん美術館学芸員 佐藤)


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――今回の展示を企画したきっかけを教えてください。また、展示について検討するうえで強く意識したことはありますか。


コート・ギャラリー国立の方から、このギャラリーのことについて聞いていたんです。展示をするにあたって審査があるということもそこで知りました。審査があるというところに対して不安もありましたが、コート・ギャラリー国立の方が、やってみたらと言ってくださったので、勇気を出して申し込みをしてみました。私と同じくコート・ギャラリー国立を利用されている明円光さん(2024年度当ギャラリーにて展示)ともつながりがあるのですが、彼から「(当ギャラリーでの展示で)S100号のキャンバスを5枚ほど使った」という話を聞いて、なんて広い壁面なんだ!と驚いたんです(笑)。100号以上のキャンバスを使った作品でないと、映える展示ができないと感じました。また、外から見た時の広場の噴水との兼ね合いも考える必要があると思いました。外から観賞していただいてちょうどよいように、作品は比較的高めに展示しました。

作品のサイズと広場の噴水との関係性という点は強く意識しました。


――今回の展示タイトルにはどのような思いが込められているのでしょうか。ここ数年、継続して取り組まれているテーマなんですよね。


はい、近年繰り返し考えているテーマですね。自分の中で、「覚えていることと忘れられないことの違い」というのがかなりしっくりきていて。私が描いている絵は抽象画ですが、鑑賞者の方が、忘れてしまった記憶など、何かを思い出してくれるきっかけになればいいなと思って制作しています。


――こういった制作テーマにたどりつくきっかけはどのようなものだったのでしょうか。


記憶や過去という問題はこれまで漠然とずっと考え続けていたことではありました。なぜそこに自分が引っかかるのか、惹かれるものは何なのか。それをずっと考え続けながら絵を描いてきました。その結果描かれた風景というのは、「心象風景」なのだと思うのですが、心象風景というのも、自分の意識の中の風景の場合もあれば、無意識の中の風景の場合もあるなと気づいて。私自身、どこか分からないのだけれど覚えている風景というものがあるんですよね。それを絵にすると、絵を見た人が、「これ○○じゃない?」と言ってくれたことで、その時やっとその場所がどこか気付くということがあって。覚えているのに、忘れてもいる、というか。


――今回ご出品いただいている作品は、「幻」というタイトルもあれば「思い出の空」という比較的具体的なものを指しているタイトルのものもあります。



《幻Ⅱ》1620×1620mm/Acrylic, Spray
《幻Ⅱ》1620×1620mm/Acrylic, Spray

《幻Ⅰ》1620×1620mm/Acrylic, Spray
《幻Ⅰ》1620×1620mm/Acrylic, Spray
《思い出の空Ⅰ》300×300mm/Acrylic
《思い出の空Ⅰ》300×300mm/Acrylic

タイトルは具体的なのですが、絵はあくまで抽象で、何となく記憶の中にあるような、古い写真のようなイメージを絵に込めています。


――作品自体のお話になります。制作はアクリル絵具を主に使用されていますが、今回はスプレーも使って描かれていますね。例えば《幻Ⅰ》《幻Ⅱ》は、白い靄の中から図像が浮かび上がってくる様子がそのまま描き留められているような表現がなされています。


これは気持ちよく描けた絵です。カラースプレーも初めて使用したのですが、素材との相性もよかったみたいです。スプレーって、ダマがあったり、使いはじめと使い終わりで色の差がかなりあったりするんですが、この性質は普段使っている油絵具とも近くて好ましく感じました。葉っぱのシルエットは、本物の葉っぱを使って出しているのですが、ぴったり画面に置いてスプレーをしてしまうときれいに形が取れてしまうので、適当に画面から浮かせた状態でスプレーを吹きかけることで、あえてあいまいな形をとり、そこから私が手を加える、という方法で描いています。なので、画面上の植物の形は、本物のところもあるんだけれどにせものでもあるような形なんです。また、そうすることで複雑な奥行きも生まれます。


――完璧なものではなくて、不完全性をどこかに入れ込むような感覚でしょうか。あいまいな領域へのご関心がそうさせるのでしょうか。


そう思いますね。絵が完成すると「物」になって、そこで終わってしまうような感覚があるんです。私としては、鑑賞者の方が絵を見た時に初めて完成してほしい。私の絵はあくまで「パーツ」というか「きっかけ」であって、絵を見た人が絵についてどう思うか、というところで初めて絵が完成する、というのが理想です。途中なのか途中でないのか、どっちつかずの状態で制作をストップさせたい。「物」にしてしまわないようにすることですね。


――制作の上で、インスピレーションは具体的にはどんなものから受けていますか。また、制作のモチベーションとなるものごとについても教えてください。


《幻》では花とか植物がモチーフになっています。植物って、私たちが寝ている間は、どうなっているんだろうという疑問があったんですね。例えば花って私たちが見ている時は咲いたり枯れたりしているけれども、夜中とか、本当はどうなっているのかなという。また、ドライフラワーは咲いているのか枯れているのかどちらなのかというのも気になっていて。自分が知らないだけで実は何かが起きている、ということが引っかかるんですよね。景色の印象や経験が主なモチーフかもしれないですね。生活している中で印象に残っている光とか。場所よりも、例えばそこで光っていた木漏れ日の感じがどうだったか、というところが重要ですね。その場所について覚えていること、忘れられないこと、寝る前にふと思い出すことなど、そういったものが自分の制作のモチベーションに繋がっています。


――制作のスタイルについても教えてください。


自分が制作をする時というのは、制作に関する予定とかはほとんど組まずに、ふと、気がついたら描いていた、という感じですね。自宅では、いつでも制作に取り掛かれるように画材なども常に出しっぱなしにしてあります。


――話は変わりますが、美術作品の制作をしていこうと思われた経緯についてお聞きしたいです。


子供の頃、私はクラシックバレエに打ち込んでいました。小学3年生の時に、私と年齢が近かった高田茜さん(現在イギリスのロイヤル・バレエ団に所属しているバレリーナ)と一緒に踊る機会があったんですね。その時に、彼女のまなざしというか覚悟の違いに愕然として、私がバレエをやっていても仕方がない、と思ってしまったんです。その日から、「私は別の目的を探さなければならない」と小学生ながらに悩み続けて、中学生になった時に、私は美術部に入って絵をかくんだと決めたんですね。それからずっと描いてきました。そして高校生くらいの頃、ひょんなことから塩田千春さんの作品と出合ったんです。作品を見た時に、私はこの人の作品みたいな作品が作りたいんだなと確信して。当時、まだ塩田さんは現在ほど国内で著名ではなく、展覧会も全然なかったですし、画集もドイツ語のものはあっても日本語訳されたものはなくて。「これはもうドイツに行くしかない」と思いました。そんな中、大阪の国立国際美術館で塩田さんの展覧会(「塩田千春 精神の呼吸」2008年)が行われることになり、そこでボランティアスタッフとして働いたんですね。その時に塩田さんと少し親しくなり、ベルリンに行ってみたいという話をしたら、「それならうちのアトリエにきたらいいよ」と言ってくださって。それからアトリエで制作の補助をさせていただいていました。2007年とか2008年のことです。その頃はインスタレーションなどにあこがれていましたが、結局自分の表現に合っているのは平面作品かなと思いました。

震災があって、その後日本に戻ってきて、それから美術教育に関わる仕事も始めて。当時は暗中模索の日々でしたが、今は絵画教室やワークショップのお仕事も増えて、仕事と制作の両立ができるようになってきました。


――絵画教室のお話が出ましたが、ご自身の所属されている「コネルテ」での活動とご自身の制作活動は、どのように影響し合っているのでしょうか。


そうですね、例えば「コネルテ」で子どもと接する上で、自分が現在進行形で制作しているからこそ、素材に慣れているからこそわかることは、たくさんありますね。強みでもあるかなと思います。子どもの性質に合わせてその都度加減しながら対応するということを心がけていて。絵具と紙を使うワークショップであれば、用意する絵具の色数や、紙を新しく取り換えるタイミングなど、ひとりひとり適切な数、タイミングを見極めることをしています。それは、「コネルテ」のメンバーが皆共有しているルールでもありますが、皆、仕事と同時進行で制作をしているからこそそれが可能になっていると思います。


――今後はどのような活動をしていきたいですか。


淡々と今の生活を続けていきたいという思いが強いですね。制作して、作品発表をして、仕事もして、という生活を、淡々と続けていきたいです。


――ありがとうございました。



 インタビュー実施日:2025年12月3日


鈴木ケイナ個展「覚えていることと忘れられないことの違い」

 

会期|2025年11月24日(月)〜2026年1月16日(金) ※年末年始の期間(12/31〜1/3)もご入場いただけます。

利用可能時間|午前8時〜午後9時

入場料|無料

会場|多摩信用金庫本店本部棟2階ギャラリー(地域貢献スペース)

         〒190-8681 東京都立川市緑町3-4 多摩信用金庫本店2階

お問い合わせ|042-526-7788(たましん美術館)


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