アルト・クサカベ 個展「being-私という存在」 インタビュー(地域貢献スペース/立川)
- t-zaidan
- 1 日前
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多摩信用金庫2階ギャラリー(地域貢献スペース)では、当ギャラリー「若手アーティスト部門」の審査を通過した作家、アルト・クサカベによる個展「being-私という存在」を2026年7月24日(金)まで開催しています。
出品作家のクサカベさんに、今回の展覧会の出品作品や制作の手法についてお話をうかがいました。
(聞き手・文:たましん美術館学芸員 佐藤)

――今回の展示を企画したきっかけを教えてください。また、展示を企画するにあたり意識したことがありましたら教えてください。
武蔵野美術大学で学び、同大学で助手をしている中で、作品を発表する機会というと都心になることが多かったのですが、自分の身近な場所で作品を発表することがほとんどなかったことに気が付いて。そこで、このギャラリーの存在を知った時、ここで展示ができるとなれば、自分が普段過ごしている土地のことを、制作を通して考えるよいきっかけになるのではと思ったんです。
私は武蔵野美術大学から5キロほど離れた多摩湖をゴールにしてランニングをしているのですが、湖をぼーっと眺めた時に、不思議な感覚におちいることがありました。暮れていく景色の中で、湖を取り囲む森に見られているような感覚です。自分の近くにある土地について、それと向き合った時の自分の気持ちや感覚を含めて考えてみるということを、この展示をきっかけにしておこないました。
――本会場は、展示をするにあたっていかがでしたか?
この会場は通りすがりで訪れる方も多いと思うのですが、それがとても嬉しく思います。都心でおこなう展示に来てくださる方とはまた違った層の方がお越しくださる中で、「これは多摩湖かな?」と気がついてくださる方もいて。地域の人とのとてもよい接続の場となっているように感じます。
――「being-私という存在」」という展覧会タイトルにはどのような意味が込められているのですか?
「being」というのは「そこにある」とか「そこにいる」といったことを示していて、『ハムレット』では「To be, or not to be, that is the question.」といった抽象的な問いとしても登場するものです。私が多摩湖に向き合った時、風景が大きく広がっている分、自身の大きさが小さく感じるということがありました。その時、自分が抱えていた悩み事や、職場、自身の部屋などが有していた単位が小さくなっていったんです。まさに、「そこにあるような、ないような」感覚で、自分とは何なのだろうか、自分の感じていることとは何なのだろうかと思ったり、「今」という時間が過去のようにも未来のようにも感じられたりと、湖と向き合うことが「自身の存在」を問うことにつながって。「あいまいであること」と「確かに存在すること」を「being」という言葉に込め、展覧会名としました。
――クサカベさんの制作する風景画は、その風景が様々な広がりをもちうることを強く感じさせます。
そのあたりは、制作においてはあまり意識的ではありませんが、これまで継続的に採用してきた「紙をつなぎ合わせる」という手法は、自身が湖と対峙した際に感じた、自分がばらばらになっていく感覚や、それをまたつなぎ合わせるといった感覚とリンクしました。できあがってから作品を見てみると、絵の色面ひとつひとつが、絵の中でばらばらに分離していこうとしているもしくは集合しようとしているところのように感じられて、絵と風景の多元性について考えることになりました。また、描いた場所というのも、多摩湖がモチーフにはなっているものの、どこかの海やその水中など、確定的でない描き方にはなっています。自分の意識の不安定さみたいなものが、そういったかたちで現れてきているのかなとも思います。
――今回は「多摩湖」という具体的なものがモチーフになっていますが、普段の制作ではいかがですか。
普段は、建物をモチーフにすることが多いです。そういった、小さな単位のものを題材にすることが多かった中で、今回は多摩湖とその周辺という大きな単位のものをモチーフにしました。自然物を描くことはもちろんあったのですが、日本庭園とか、風景というとより狭い領域のものを描いていました。その描いていた規模感を大きくしたことによって、自分と風景との対比について考えさせられることになりました。今までは単位が小さかった分、自分の視点がわかりやすかったのですが。
――モチーフのスケールが変わったことで、自分のもつスケールが変わっていったというような。
そうですね。絵を描く時、例えば大きなマンションをモチーフにしたら「大きい」ことを感じます。でもそれは「大きな風景」としてではなく小さな箱ものとして捉えて、おもちゃのように分解したり組み合わせたりすることが可能なんです。でも、湖のある風景は際限がない。描く時は、紙に色を乗せ、それを組み合わせながらかたちを作っていきました。その過程でも、自分の存在というものに意識が向くことがありました。
――狭山丘陵や多摩湖はご自身にとってどのような存在ですか。作品にしてみた結果、向き合い方に変化が生まれる等はありましたか。
描く前と後で、その存在の大きさに圧倒されるということは変わりませんでした。何度も訪れる中で、季節、時間帯によって、空の色も空気も雰囲気も変わるのですが、そこは変わらなかったですね。
――今回の展示作品の制作を振り返って、これまでの制作から変化したことはありましたか。
いつもよりもモチーフが広範囲である、限定的でないということによって「いつでも分解可能」といった感覚で制作していたように感じます。建物や庭をモチーフにしている時は、どうしてもまとめたくなるというか、境界線をはっきりさせたくなるんです。支持体の白い地の上に余白を残しつつ、大きなかたまりを画面中央に集めていく、というような感じです。一方今回の制作では、画面の中にかたまりがあるんだけれども、それが勝手にどこかに動いていきそうな感じがある。そういった画面作りにおいて、これまでの制作との違いを感じています。
――作品制作においてご自身にとって重要だと思う点は何ですか。
普段は、画面構成を強く意識しています。これは日本庭園などからの影響なのですが、例えば「ここに岩があったらこちらにはこれが二つなければならない」というような、バランス感覚のようなものはとても重視しています。
――クサカベさんは武蔵野美術大学で日本画を学ばれましたが、平面作品だけでなくインスタレーションとしての作品発表も行うなどアウトプットの幅が広くていらっしゃいます。作品発表の形態について考えていることはありますか。
大学の授業の一環で立体物を制作することもあり、彫刻的な作品を作ることもなくはなかったです。ただ、様々な形態の作品を作ってみた中で、自分にとっての表現の最適解は絵画だ、ということは感じました。立体を作る時も、重要なのは構成であり、かつ、それは平面的な構成であると考えています。立体を作りつつも、考え方としては絵画の領域のものです。平面的な世界で起きうることに関心があるのだと思います。庭も建築も、その風景や建物の中に入ってみたいというよりは、ある角度から見た時の見え方であるとか、影の形であるとかが気になるんです。
――モチーフと技法や素材の関係性について意識していることはありますか。
日本画学科で学んだので、岩絵具とか、膠とかを使うのですが、素材に縛られたくないという思いは強いです。自分の納得のいく発色がアクリル絵具のものだったので、アクリル絵具で全て仕上げる作品もあります。紙も、和紙だけでなく洋紙も幅広く使って比較した中で、より色がシームレスにつながってくれて、破いた時に厚みが出にくいため色面同士の差があまりないものが結果的に和紙だったので和紙を使っています。モチーフとの関係性で言うと、今回発表した作品では、アクリル絵具で色をつけた紙片のストックを吟味しながら制作をしました。空のために用意した紙片を湖の色として使った部分があるなど、モチーフと、それを構成するものの色や形をその都度選び、時に組み替えたりしながら制作していました。画材を使って絵を描くというより、画材から素材を作り、その素材を使って風景を組み立てているというようなやり方です。箱庭を作るような意識ですね。
――絵画作品の制作過程について詳しく教えてください。
和紙に絵具を塗って乾かして、それを破いて、絵の素材を作ります。これを、あらかじめつなぎ合わせておいた絵画の地となる白い和紙の上に置いていくという流れですね。
建造物を描いていた今までだと二層構造だったのですが、今回制作した作品では、紙の地の上に、風景における地がのることになり、その上に図がのってくるという三層構造になって、入れ子のような仕組みの絵になりました。破いた紙をつなぎ合わせたり重ね合わせたりして絵を構成するという手法は、平安時代の料紙という技法からヒントを得ました。
――今後はどのような活動を行っていきたいですか。
今回のように、新しいテーマに挑戦することで、自分の作品がどんどん変わっていけばいいなと思っています。展覧会ごとに、新たな章を重ねていくように作品の様々な展開をお見せしていけたらと思っています。
――ありがとうございました。
インタビュー実施日:2026年6月13日
アルト・クサカベ個展「being-私という存在」
会期|2026年6月1日(月)〜7月24日(金)
利用可能時間|午前8時〜午後9時
入場料|無料
会場|ギャラリー(地域貢献スペース)
〒190-8681 東京都立川市緑町3-4 多摩信用金庫本店2階 北側通路
お問い合わせ|042-526-7788(たましん美術館)



