唐沢茉理絵 個展「ハルカ」 インタビュー(地域貢献スペース/立川)
- t-zaidan
- 1 日前
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多摩信用金庫2階ギャラリー(地域貢献スペース)では、当ギャラリー「若手アーティスト部門」の審査を通過した作家、唐沢茉理絵による個展「ハルカ」を2026年5月22日(金)まで開催しています。
出品作家の唐沢さんに、今回の展覧会や普段の作品制作についてお話をうかがいました。
(聞き手・文:たましん美術館学芸員 佐藤)

――今回の展示を企画したきっかけを教えてください。また、展示を企画するにあたり意識したことがありましたら教えてください。
私は昨年度まで東京造形大学の大学院に在学していたのですが、大学院生全体のクラスルームで、教授からこのギャラリーの公募についてお話があって。そこでこの会場を知りました。ちょうど去年は、展示の機会を増やしていきたいなと思っていた時期でした。色々な空間、色々な光の中で自分の作品を見てみたいと思っていたんです。自然光が当たり、木に囲まれた空間で展示してみたいなと思い、企画書を作りました。この会場については、誰でも通れる通路であること、ガラス張りで外に開かれていて、様々な人がふらりと入ってきやすいことがとてもいいなと思いました。今まではいわゆるホワイトキューブでの展示が多かったですが、木の色合いに囲まれると、作品の見え方がとても新鮮になりました。
開放感のある空間なので、ここ数年で描いた100号くらいの大きな作品をメインに、たくさん並べたいなというのが大きかったです。今までの展示だと、100号の作品1点と50号前後を何点かというような構成のものが多かったのですが、思い切って、今まで描いた大きな作品だけを並べて、作品の間の変化なども見ていただけるようにしてみました。
――作品が大きいので、元々の空間がもつ開放感がより増幅するように感じます。「ハルカ」という展覧会タイトルにはどのような意味が込められているのですか?
今回、標記を片仮名にしてみましたが、意味としては「遥か遠く」とか「遥か彼方」のイメージをもって付けました。遠さとか近さといった、制作における距離感の問題がここ数年の制作で重要なものになってきていると感じていて。
――制作の上での距離感というのは、絵と自分の間にある物理的な距離のこととか、モチーフとの距離感のこととか、様々だと思うのですが、詳しく教えていただけますか。
大きく分けてふたつのことに関心があります。ひとつは、制作の中での自分のうちに広がる距離感のことです。私は絵を描く時は身近なものから出発するのですが、身近なものが、自分の描く行為を通して物質として私の前に現れた時に、新たな図像になっていきます。その際に、自分の内面にあったモチーフとの距離感が変容するということに関心がありますね。もうひとつは、絵画空間における距離感のことです。私は例えばベランダの柵のような、近くにあるものと、その向こう側にある街並みを描くとした時に、近くのものと遠くのものの前後関係が確かさをもってそこにあるようには描いていないんです。その絵画の中で、描かれたもの同士の距離感があいまいになっていくという点での変容に対しても興味があります。
――絵画の空間の中で、モチーフ同士の関係があいまいになっていくという変化と、描くことを通してご自身と対象との関係性が変わっていくというようなことでしょうか。
そうですね。
――描かれたものの話になりますが、置いたタッチの差でものの輪郭が生まれでるような描き方をされていて、それが面白いです。対象のとらえ方や空間の描き方について、意識的に行っていることなどはありますか。
最初からものの輪郭を定めて描いてはいないですね。部分的には輪郭が描かれているけれど、その隣はあいまいにされたまま、というような感じで描き進めていきます。ひとつのタッチを置くごとに、そこに対応するタッチを置いていって、どんどん筆をのせていくと完成するといった感覚です。ドローイングとか、スケッチもあるのですが、そこに描かれた形に頼るのではなくて、キャンバスを前にしたらそこでまた新しく描き始める、という心持ちですね。
――身近なものから出発するというお話がありましたが、身近なものを描いていきたいと思ったきっかけなどはありますか。
最初に、何を描いていこうか考えた時に「シンプルな場所にいたい」と思ったんですね。スケッチすることが好きで、身近なものから描き始めるということは自分にとってとても自然で、シンプルなことだったんです。そこからずっと、自分にとって身近なものを対象として選び続けています。
――ベランダの柵だったりフェンスだったり、物としてあるんだけれど、手前と奥とか、右と左など、境目をつなぐものとして存在するものがよく選ばれているのかな、という印象があるのですが、モチーフの選択のこだわりはありますか。
描き始める段階では意識していないんです。このサイズのキャンバスにこれを描こう、といった感じで描いていくのですが、完成したものを振り返ってみると、結果的に、今おっしゃったように、内と外とか、手前と奥といった関係性をつくる物体を選んできたな、と感じるんですが、このことについてはまだ自分でもはっきりわかっていなくて。無意識に選んでしまっている、という感じだと思います。自覚しきれていないだけで、通底する何かというのはあると思います。
――作品の色はどのように決めていますか。
はじめは、やんわりと「この色かな」と感じている色で進めますが、描いていく中でこの形にはこの色だというのがわかってくることが多いです。画面の中で相対的に色が出てくることもあります。一方に色をのせると、もう一方にのせるべき色が見えてくるというような感じです。それがじわじわと画面全体に広がって、完成します。
――今回ほとんどの作品が縦長の画面なのですが、意識していることはありますか。
最近は縦長の画面の方が描き心地がいいなと思っていて。《起床 窓》については横長の絵ではありますが、縦の線で画面を区切っているように見えますよね。縦長の絵というのは、自分の身体の幅に近いから描きやすいのかなと思ったりします。風景って横に広がるイメージが強いのですが、だからこそ、縦にパッと割って見てみたいというような気持ちがあるのか、逆に筆が進みやすい印象があります。

――普段の制作スタイルについて教えてください。
普段街を歩いていたり、電車を待っていたりする時に見た景色をモチーフにするのですが、それらの風景をできるだけぼうっと眺めているようにしています。必要だなと感じた時には、普段持ち歩いているノートにメモするような感じでスケッチしておきます。その後アトリエに行って、アトリエで、見た景色のことを思い返すんですね。スケッチを参照することもあればしないこともあります。ふとした瞬間のものを思い出して絵具をのせるような制作ですね。風景を思い返して、色を画面にのせていくという、思い返すことと描くことが交互に訪れるような制作過程です。また、同時並行で複数の絵の制作を進めることも多いです。異なる絵同士が影響し合うこともあります。この絵で使ったこの色を、あの絵のこの部分で使おう、と思ったりとか。
――影響を受けた作家はいますか。
ピエール・ボナールが好きです。高校生の時に国立新美術館での展覧会を見て、その時はそこまで興味はなかったのですが、買った画集を眺めていたらじわじわと良さが見えてきて、気づいたら好きになっていました。
――今後はどのような活動をしていきたいですか。
制作自体は、同じテーマで続けていきたいなと思っています。それと、これからも色々な空間に置かれた自分の絵を見てみたいので、展示の機会を増やしていきたいです。ちょうど大学院を出たばかりなので、生活の基盤を整えるというのも目標ですね。
――ありがとうございました。
インタビュー実施日:2026年4月11日
ハルカ
会期|2026年4月6日(月)〜5月22日(金)
利用可能時間|午前8時〜午後9時
入場料|無料
会場|ギャラリー(地域貢献スペース)
〒190-8681 東京都立川市緑町3-4 多摩信用金庫本店2階 北側通路
お問い合わせ|042-526-7788(たましん美術館)



