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影山萌子 個展「手のひらの椰子」 インタビュー(地域貢献スペース/立川)

  • t-zaidan
  • 21 分前
  • 読了時間: 8分

多摩信用金庫2階ギャラリー(地域貢献スペース)では、若手アーティスト部門の審査を通過した二人目の作家、影山 萌子(かげやま もえこ)による個展「手のひらの椰子」を2025年7月18日(金)まで開催しています。

 

出品作家の影山さんに今回の展覧会に込めた思いや制作のテーマについてお話をお聞きしました。


(聞き手・文:たましん美術館学芸員 佐藤)

 



――今回の展示を企画した経緯を教えてください

 

もともと昭和記念公園によく来ていて、グリーンスプリングスもとてもいい場所だなと思っていました。こちらの会場にも、澤井昌平さん小野仁美さんの個展を見に来たことがあり、その際展示企画の募集要項を見つけて応募しました。

 

――このギャラリーは一般的なホワイトキューブのギャラリーとはまた異なった空間だと思いますが、どのように捉えていますか。

 

この通路だけということではなくて、外の庭園と合わせて一つの空間だと捉えていて、それがとても魅力的だなと思っていました。もともと、庭園とか、造られた自然とかそういったものに興味がありました。庭園を見ながら作品を見られるとか、庭園にいる人が噴水を見ながら作品を見られるとか、借景のような効果が出たら面白いなと考えていました。

 

――グリーンスプリングスの広場側から見ると、噴水の噴き上がる水と、その奥に見える作品の画面の水のようなものが噴き上がっている風景がリンクして目に映るというのも面白いです。

 

《ファンファーレ》
《ファンファーレ》

――今回の展示を検討する上で強く意識したことは何ですか。

 

明確に「庭」というテーマを設けたので、テーマに沿った作品をまずしっかり選ぶということを意識しました。自然の風景だとしても、人の手が入り、人の手によって形成された自然というものを意識して制作した作品を選ぶようにしましたね。会場が通路のため、作品の見え方が通常のホワイトキューブの会場とは異なるので、色の明るさとか、見やすさという部分も意識しています。

 

――通路だから、会場に入って最初に目に入るのが作品のエッジになるのですが、そこにも鮮やかな色が使われており、作品の世界の色彩がすぐに飛び込んでくるのも面白いです。

 

絵のエッジに色を塗るというのは毎回やっていることではあるのですが、今回の会場だと一層強調されますね。

 

――「手のひらの椰子」という展示タイトルにはどのような思いが込められていますか。椰子の木というと、暖かい地方に生えているものというイメージもありますが、やはりリゾート地など人が余暇を過ごすための空間というか、非日常の風景を形作るために人が植えているというイメージも強いですよね。

 

もともと椰子の木は絵に描いたり、立体を作ったりと、モチーフとしてはよく登場していました。おっしゃる通り、人が開発した土地に、演出として植えられている印象の強い自然物で。観光地とか行楽地の象徴みたいな感じで、非日常であるとか「いい暮らし」といったようなことの象徴として使っているかなと感じています。以前アリゾナに行った時に、現地でたくさん椰子の木を見たんです。暑い地域ではあるんですが、自然に群生しているというのは少なくて、やはり高級住宅地の、道の両サイドに使われているとか、雰囲気作りのために植っているという光景が頻繁に見られたんです。ますます椰子の木という存在に対する意識が強まり、モチーフとしてはかなり執着しました。

展示のタイトルを決める時、「庭は造られた自然の空間」というのがまず念頭にありました。「庭」って、単なる「造られた自然」を示す言葉というだけでなく、「ここは俺の庭だから」などという言い方がありますが、そういった、言い回しにおいても使われる単語で。これを英語ではどういう表現をするのだろう、と思って調べてみると、「俺の庭」とは言わないけれど、「この場所は私の手のひらの上」という言い回しがあるということを知ったんです。手のひらって英語でpalmと表しますが、手のひらよりも、それが語源である椰子の木(palm tree)がビジュアルとして浮かんできたんですね。手のひらに椰子がポンと生えているイメージが出てきました。そこで、「誰かが作った手のひら」の上に「造られた自然の象徴たる椰子」が乗っかっているというのがビジュアルとして浮かんできて、その状況が展示のタイトルにぴったりだと思ったんです。


――椰子というものをこれまで描かれてきたということですが、今回の出品作品のなかに描かれているのが、椰子の木、噴水のように水が下から上に向かって噴き上がる風景、人物が画面の上辺に向かって立っている風景など、縦に伸びていく動きを感じさせるという点で連なる構造が見えるように感じました。描く対象に対してのこだわりなどがあれば教えてください。


《アーバンリゾート2》
《アーバンリゾート2》

 

《ワープ》
《ワープ》

「人工的な自然物」が基本のモチーフとなっていますね。例えば噴水は、人が水の形を整えたもので、椰子は、もちろん自然物ですが、暮らしの中で自分が目にするのは自生しているものより人が植樹したものです。なので、噴水と椰子は対になるものだと思っていますし、形の点でも共通性があって面白いなと思って、以前からよくモチーフにしています。「椰子」と「噴水」のような、形が近いけれど、色みなどの要素によって簡単に区別されてしまう、というものに惹かれますね。昔の今ほど精密でないローポリゴンの電子ゲームでは、その画面上に、色が違うことによってのみ区別されている、同じ構成による要素が示されていることがよくあります。そういった、「共通した形が、全く別のものになる」ということにとても魅力を感じています。例えば神様のような世界を作った者がいるとして、その存在が、同じような形で複数作ったけれども、こちら側からはそれらが別々のものに見えている、といった状況を想像してしまうような…。そういったメタ的な存在を感じられることが面白く思えるから、魅力を感じているのかな、と思います。

制作の根底にある意識のひとつとしては「人が造った世界で暮らしているというリアリティ」というものがありますね。

 

――制作などにおいて影響を受けた作家はいますか。

 

アメリカのマイク・ケリーとかは結構好きで、アメリカのポップな、消費社会のトラウマをテーマに表現している、ということには影響を受けています。

 

――影山さんの絵は、全体の印象としては少し暗めなのだけれど、色が鮮やかだということが面白いです。色の使い方についても教えてください。

 

基本的に色も、人工物というか、ネオンサインとか、そういうものに影響を受けています。私は東京で育ったのですが、都会のネオンの光の色に対してどこか帰属意識が持てるというか。「綺麗な山の緑」だとかは私から遠い存在に思えますが、人工的に着色された鮮やかさというものには惹かれますね。自分の絵では、なるべく色の彩度を落とさないように、絵具自体の色そのもので描いたりもしています。鮮やかさという点はやはり大事にしています。

 

――作品のスケールも気になるのですが、意識されていることはありますか。

 

展示場所が決まっていたら、その展示場所に合わせた大きさを選ぶというのはありますが、基本は、景色の図像が頭の中に浮かんできて、それをどれくらいの大きさで描こうかなと考えます。遠くから俯瞰した広範囲な風景ほど小さなサイズで描く傾向がありますね。私、地図を読むのが苦手なのですが、地図ってその場所の上空から見たところの図ですよね。そのことと、自分が一人称の視点で街を歩き回る現実の世界が結びつかないというちぐはぐ感というのがあって。絵を描く時も、俯瞰で見た広範囲の風景と、低い目線から見た風景とでは全く違った印象をもって描いています。作品のサイズについては、その印象の乖離を示したいという思いもあってかなり区別をしています。

 

――影山さんの絵を見ていると、自分がどの位置にいてこの風景を見ているのかと、自分の立ち位置が不安定な感覚が出てくるというか。

 

私自身、自分がどの位置にいるかふわっとしていることが多いかもしれません。夢も三人称の視点で見ることが多いですし、風景を描く時、一人称の視点ってあまりないかもしれません。

 

――今回は絵画作品と立体作品を出品していただいていますが、ジャンルを超えて制作することに対してはどのような思いがありますか。


《噴水》
《噴水》

《噴水ちゃん》
《噴水ちゃん》

 

もともと立体はドローイングというつもりで制作していました。キャンバスに絵を描く前の下準備という感じですね。でも、だんだんと、これは立体で表現したほうがいいな、これは絵画で表現したほうがいいな、というのが自分の中でわかってきて。風景の絵を描いた時に、その間にある表現しきれないものとか、風景になりきらないものを表現するのに、立体は必要なものなんですよね。これからも続けていきたいと思っています。

 

――今後はどのような作品を制作していきたいですか。

 

今までずっと、「都市と自分」という関係に焦点を当てて制作することが多かったのですが、「都市と人」だけでなく、より大きなテーマに沿って作品制作をしたいです。もともと、個人とその周囲の世界の乖離とか断絶、それによる生きづらさみたいなものが制作の根底にはあって、それを表現するためのモチベーションは、自分が東京で生まれ育ってきた中で見ていた風景に対しての思いでした。

風景画はずっと描いていきたいとは思っているのですが、場所性に限らず、他の問題にも目を向けながら描いていきたいなと思います。


 インタビュー実施日:2025年6月1日


影山萌子『手のひらの椰子』

会期|2025年6月2日(月)〜7月18日(金)

利用可能時間|午前8時〜午後9時

入場料|無料

会場|多摩信用金庫本店本部棟2階ギャラリー(地域貢献スペース)

         〒190-8681 東京都立川市緑町3-4 多摩信用金庫本店2階

お問い合わせ|042-526-7788(たましん美術館)



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