アール・ブリュット立川実行委員会 インタビュー(地域貢献スペース/立川)
- t-zaidan
- 11月11日
- 読了時間: 9分
多摩信用金庫2階ギャラリー(地域貢献スペース)では、地域団体部門の審査を通過したアール・ブリュット立川実行委員会主催のグループ展「アール・ブリュット立川2025 グループショー」を2025年11月14日(金)まで開催しています。
アール・ブリュット立川実行委員会の松嵜さん(以下「松」)、堀内さん(以下「堀」)に、今回の展示について、また、実行委員会のあゆみについて、お話をうかがいました。
(聞き手・文:たましん美術館学芸員 佐藤)

――展示を企画した経緯を教えてください
堀:ここで展示をしよう、と決めたのは、2年前、立川文化芸術のまちづくり協議会による「文化芸術のまちづくりダイアローグ」の会場で、地域貢献スペースについてご紹介いただいたことがきっかけでしたね。時間のない中で企画書を作成して、このたび企画を選んでいただけて本当に良かったなと思います。
松:今日までで10年と半年以上、アール・ブリュット立川として歩んできました。アール・ブリュット作家の皆さまや、地域の方々に、本当に愛された団体だったんじゃないかなと、自画自賛になってしまいますが思っています。10年間、実行委員会はボランティアでずっと走り続けてきたものですから、支えてくださる皆さまがいてくださることで、こうしてこのような場所をお借りして展示をして、皆さまに作品を知っていただける、という機会を得られたというのは、とてもうれしいことです。感謝しかありません。
作家の皆様も、多くのお客様に作品を見ていただけるということは励みにもなりますし、自分たちの作品が、皆さまに喜んでいただけているというのが肌で感じられる会場だと思っているので、本当にありがたいです。
始まりは、アール・ブリュット作品に出会ったときの、「言葉で表現することが難しい人たちがこんなに素晴らしい内面の世界を持っているんだ」という感動を地域の人たちにも知っていただきたいという思いでした。今回の会場は、地域の皆さまにぷらりと立ち寄って展示を見ていただけるという点で私たちのしたいことにとても合っていると強く感じています。
――実行委員会の活動について、これまでを振り返ってみるといかがですか。
堀:忙しかったね(笑)。
松:忙しかった。10年、本当に手探りでした。「アール・ブリュット作品を知ってもらいたい」という思いだけで実行委員会を立ち上げて、「仕事」としてではなくあくまでボランティアで行う活動としてみんなでどこまでできるか…というところが始まりでした。
まず、2015年から、一般の方にアール・ブリュット作家と作品について知っていただくということを目的として、伊勢丹立川店で展示を6年間やらせていただきました。当時の企画書には、「2020年の東京オリンピック、パラリンピックまで継続したい」といったことを書いて提出させていただき、伊勢丹立川店に立川市社会福祉協議会とつないでいただいたのです。ちょうどその時の近藤事務局長(現・立川副市長)には大変お世話になりました。企画書を提出した後、伊勢丹立川店に原島啓輔さんの作品をお持ちして見ていただいたら、そこですぐに、特別室での展示を行えることが決まりました。準備期間は短かったですが、作品展にご出品いただける作家さんを訪ねて奔走しました。私自身が障がいがある子の親でもあるので、障がいがある子の親御さんにも紹介していただいたりとか。そういったネットワークを構築しながら、それを使って、自分たちの足で作品を集めていきました。
「自分たちの目で見て、素晴らしいと思った作品を展示する」ということはずっとぶれずに行ってきています。「アール・ブリュット=障がいがある方の作品」ということではありませんが、私たちは主に障がいがある方たちの作品を紹介して、彼らのことをとにかく知っていただきたいという思いがあります。これまでに、作品の展示だけでなく、販売も行いました。
伊勢丹立川店での展示を6年間継続できたことで、都内の他の市に比べるとより多くの市民の皆様にアール・ブリュット作家と作品について知っていただけているのではないでしょうか。
私たちはこれまで、クオリティの高い作品、芸術性の高い作品を自分たちの目と魂を信じて選んできたのですが、そこは絶対に譲れないところですね。アール・ブリュット作家さんのこだわりのある世界とか、私たちには到底まねできない制作スタイルとか、彼らの毎日の生活の中に「制作すること」が自然とあることとか…。彼らには、一般のクリエイターとも引けを取らないくらいに、制作にかけるエネルギーがあるのではないかと感じています。
これまで、ずっとアール・ブリュット作品について発信してきたことの積み重ねによって、こうしてたましん地域貢献スペースで展示をさせていただいたり、街なかにアート作品を描かせていただいたり(立飛ウォールペイントプロジェクト「ドリームロード」・JR中央線高架下「東地下道」)と、だんだんとアール・ブリュット作品のある風景が当たり前の街の風景となっていっている、ということが、とてもうれしく思います。
――出品作家の皆さんの作品と制作についてもお聞かせください。いくつかご紹介いただけますか。
松:今回はアール・ブリュット立川の初期から関わっていただいている人に多く展示してもらっています。先ほどお話に出た原島さんは生き物の表現が得意な方です。

堀:すずきこうへいさんは、特に妹さんが頑張ってくれていて。ご家族が協力的であるということは活動にとって本当に重要なことです。

松:KAZUKIさんは、15歳の頃に私の携帯電話に電話をかけてきてくれたんです。「僕の絵を見てください」とはっきりと、しっかりと言ってくれて。昭和記念公園で開催した「アール・ブリュット in 昭和記念公園」(2021年)に作品を持って来てくれました。

松:神例幸司(かんれいこうじ)さんは青梅の友愛学園さんで制作をされています。

堀:この作品はすべて作家さんの手による刺繍ですね。友愛学園さんには、編み物、木工、絵画とか、アートを教える人たちが何人もいらっしゃるんです。
松:それぞれの専門スタッフの方が、ご自身でも作家活動をされていたりするので、個性的な方々に教わることができるのがよいですね。また、友愛学園さんからは、展示の仕方などを学ばせていただくことも多いです。
松:玉川宗則さんは、現在、名古屋でもとても活躍されている作家さんです。自分のギャラリーが名古屋にあるんですよね。作品が、立川市ふるさと納税の対象返礼品にもなっています。出品作品は、立川ダイスの(バスケットボール)選手の似顔絵を描いたものです。

松:岩﨑岳さんはアール・ブリュット立川の活動初期から関わってくださっていた方です。

松:この方はものすごいエネルギーのある方なんですよ。体中で表現するというか。まるでアスリートのような勢いで2時間続けて制作したりとか。
松:和紙などいろいろな素材を使っています。木工ボンドで固めていきながら作っていますね。作品タイトルは、岳さんとお母さんが相談しながら決めています。
松:柴田将人さんはアクリル板という、新しい表現の仕方で作品を仕立てました。いつもはペンで線画を描いているのですが、下描きも一切せずに描いています。そして、彼の描くキャラクターたちはいつも笑顔なんです。

松:林航平さんは、障がいがある子のいる保護者の団体の方から、「手から魔法みたいに色々なものを生む、すごい子がいるんだよ」と教えていただいたことがきっかけで知り合ったんです。

堀:航平さんのお母さんによると、幼い頃はものすごく多動で大変だったけれど、油粘土と出合ってから本当に落ち着いて、毎日制作しているということです。おだやかな性格の方ですよ。
松:油粘土から油分が抜けてぱさぱさになるまで、ずっと粘土に触れ続けているんです。時には足を使って制作したりとか。本当にすごいと思います。25年くらい、毎日作り続けてきたんです。今は、日中はお仕事があるので、週末を中心に制作したりしているようです。
松:小林智貴さんの作品を私が初めて見たのは、若葉会館で行った地域の文化祭の会場でした。その時はモノクロームの作品でしたね。彼にも2015年から関わってくださっています。画面の左上から順番に描いていくんだけれども、ほとんどの人が、彼が制作しているところを見たことがありません。他人に見せないんです。

松:仲吉陽光さんには、ご自身が大切にしている宝物を出品していただいています。作品は彼の大切な宝物なんです。持ち出したら、ちゃんと元の箱に元通り戻すということを彼と約束して出品を承諾してもらいました。

松:鈴木伸明さんは、長野オリンピックの頃のアートパラリンピックに出品されるなど、これまでに様々な受賞歴もお持ちです。昔から、お母さんが作品の管理をきちんとやってくださっていて。
堀:「アール・ブリュット」が取りざたされる前から作品制作に取組んでおられて、その分野では先駆者と呼べるかもしれません。

松:伊賀敢男留(いがかおる)さんは、ヘラルボニー社との契約作家さんでもありますね。2013年にフリースクールで出会って、それからずっと一緒にアート活動をさせていただいています。彼には「アール・ブリュット立川での活動がなければ今の自分はない」とも言ってもらって。ありがたいことですね。

松:皆さま、惜しみなく協力してくれるということが本当にすごいことなんです。ルーティンが決まっている子に合わせて生活しないといけない人もいるし、決まった時間に決まった場所に行かないとダメな人もいるし、色々なタイプの障がいがある方々がいます。そういった方々が皆さん協力してくださることで、イベントだったり展示作業だったり、うまく調整して何とかなっていることが本当に素晴らしいことです。
それぞれの作家さんが、それぞれに自分の表現したいものを一生懸命に表現してくださっているのがありがたいなあ、と、私たち自身もエネルギーを間違いなくもらっていると感じています。実行委員のみんなも10年間頑張ってくれて、本当によかったです。
――今後の展望について教えてください
松:そうですね、常設の展示場がほしいな、と思っていますね。これは実行委員会発足当時からある思いではありますけれども。どういう方法がとれるかは分かりませんが、先ほども申しましたように、ぷらりと訪れて気軽にアール・ブリュット作品にふれられる場があれば、と思っています。
また、なんとかこの活動を、ずっと継続していきたいです。仕事として行っている活動ではないので、難しいことも多々ありますが、これからもアール・ブリュット作家さん、作品をずっと紹介し続けていきたいですね。
――ありがとうございました。

インタビュー実施日:2025年9月26日
アール・ブリュット立川2025 グループショー
会期|2025年9月22日(月)〜11月14日(金)
利用可能時間|午前8時〜午後9時
入場料|無料
会場|多摩信用金庫本店本部棟2階ギャラリー(地域貢献スペース)
〒190-8681 東京都立川市緑町3-4 多摩信用金庫本店2階
お問い合わせ|042-526-7788(たましん美術館)




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