ハンコウコウ 個展「探す」 インタビュー(地域貢献スペース/立川)
- t-zaidan
- 6 日前
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多摩信用金庫2階ギャラリー(地域貢献スペース)では、若手アーティスト部門の審査を通過した三人目の作家、HAOGENG PAN(ハン コウコウ)による個展「探す」を2025年9月12日(金)まで開催しています。
出品作家のハンコウコウさんに今回の展覧会の見どころや制作スタイルなどについてお話をお聞きしました。
(聞き手・文:たましん美術館学芸員 佐藤)

――今回の展示を企画したきっかけを教えてください
――「探す」という展覧会タイトルにはどのような思いが込められていますか。
自分だけが作れるものを探す、という意味を込めています。自分の制作において大切なのは、自分だけが作れる作品を作る、ということなんです。独自のものを作りたいといつでも思っています。どうすれば、自分にとって独特なものを見つけられるのか、それを「探す」ということですね。
――ご自身の作品において、「これは新しいのではないか」と感じる点はどんなところですか。
それは、コンセプトだと思っています。私の作品はシリーズものが多いです。一つのシリーズを作ってそれが終わったら、もう、そのままにしたくないというか、すぐに次の制作をしたいです。一つのシリーズが終わってから、その次のシリーズを考えるということがとても難しいことですね。
今回の展示は、4つのシリーズで構成しています。展示室に入って手前から順に「日常」、「音楽」、「旅」と続き、突き当たりの壁面の2点は、新しい制作に入るまでの「橋」にあたる作品ですね。




――今回の展示について検討する上で強く意識したことは何ですか。
今回は自身の過去の作品(学部生だった頃の作品)も出品しているのですが、その印象にとらわれずに展示作品を見てほしい、ということは強く思っています。私は、制作した作品がひとつあると、そこから常に新しいものを生み出さなければと思います。今回、過去3年間の作品も含めてたくさんの作品をまとめて展示することは初めてで、これまでの制作の流れが見えて面白いなと感じています。
――ハンさんの今までの制作の過程が見えてきやすい展示になったということですね。
そうですね。壁が長いからか、順番に作品を見ていると、時間というか、これまでの自身の制作の歴史を見ているかのようです。
――先ほどのお話から、自身の過去の作品を乗り越えたいという気持ちが強いことが伝わってきましたが、過去の作品を参考にすることはあるのですか。
ないですね。
過去も今も銅版とシルクスクリーンの組み合わせといった技法を使っているのは変わりませんが、各シリーズで使われている言葉が違うというか。
――作品の具体的な制作プロセスについて教えてください。
基本的に、線の部分は銅版です。それ以外のところはシルクスクリーンです。作品の構成は最初にすべて考えます。基本的な構図だったりサイズだったり、どこまで制作して一つのシリーズとするかとかですね。制作の流れが同じものは、自動的にひとつのシリーズとなります。
――シリーズで作るということがハンさんにとって重要なことなのですね。
そうですね。バラバラの作品を並べるというのは、自分にとってバランスが悪いと感じることで、あくまでシリーズとして作品を作りたいんです。
――モチーフへのこだわりはありますか。
かなりあります。このシリーズでは動物はダメ、このシリーズでは建物がダメ、という感じで、そのシリーズで通底するイメージをきちんと固めるために、厳密に決めます。
――ハンさんの作品では、細かい描き込みも特徴的です。絵を描くということのために、あえて版画を制作したいと考えたのはなぜですか。
私には持病があり、その関係で、一つのことに集中するのが難しいのですが、銅版画の制作では、細かな描き込みをするということにおいて、例外的に、集中ができるようになるんですね。物事に集中した状態になれるという点で、銅版画が自分に合っていると感じたからだと思います。集中しやすい技法なんです。
絵を好きになったのは母の影響がありました。絵が下手な母がある時、動物のカモの絵を描いて、私に「面白い?」と言って見せてくれたんです。その絵自体はやはり下手だったけれど、絵の面白さというものに触れたきっかけはその経験でした。
――ハンさんの母国は中国ということですが、中国でも絵を学ばれていたんですか。
はい。デッサンなど基本的なことを学んでいました。ですが、目の前のものを写真のように描くという点において、「自分の考えがない」ものに感じてあまりモチベーションが上がらなかったです。やはり自分の好きなものを描きたいという気持ちが強くて。
――作品の話に戻ります。描き込みの細かさもハンさんの作品の印象的なところと思いますが、同じイメージの反復という点も絵柄の面では特徴の一つと言えると思います。
生活感、わかりやすさを目指して制作したシリーズ(「生活」)では、ヴィンテージの壁紙をイメージして、イメージが繰り返される「柄」を意識して、背景にあたる部分を制作しました。
制作では、音楽を作ったり、映像を作ったりするような意識が働いています。音楽アルバムを作るようなイメージで作る作品もありますね。
――シルクスクリーンと銅版という技法を選んだのはなぜですか。
現代的な方法であることがいいなと感じてシルクスクリーンを使おうと思ったのはあります。シルクスクリーンでできることは銅版画ではできないし、その逆も然りです。どちらかの技法だけなら刷り終わったらせいぜい1色、2色になるところを、シルクスクリーンと銅版画を併用して多色刷りで完成させるというところは自分の個性であるとも思います。
――その技法だからこそ作れる世界観だなというのは感じます。色彩への意識はどうですか。
色を付ける工程は、最後の方なんです。一つのシリーズの大体の制作を終えてから、このシリーズには何色が適しているだろうか、と考えます。すべての作品を一緒に並べた時にどう見えるかということと、作品がアピールしたいことは何なのかを考えます。制作した作品を見渡して、バランスが取れるように色を後から考えますね。
――やはりシリーズで見せたいという気持ちが強いのですね。一点一点をじっくり見てほしいというよりも。
そうですね。一つ一つのシリーズを作り上げて、それを乗り越えて新しい表現をしたい。
今は、先ほどお話した「橋」の段階の作品は、もう乗り越えて、修了制作に向けて動いているところです。
――今後はどのような活動をしていきたいですか。
日本で、アーティスト活動を続けたいと思います。まずは修了制作をしっかりと完成させて、業界の評価を受けたいと思います。日本で版画制作を続けたい。
また、音楽を作ったり、映像をつくったりといったことも行っていきたいです。
インタビュー実施日:2025年7月27日
ハンコウコウ「探す」
会期|2025年7月28日(月)〜9月12日(金)
利用可能時間|午前8時〜午後9時
入場料|無料
会場|多摩信用金庫本店本部棟2階ギャラリー(地域貢献スペース)
〒190-8681 東京都立川市緑町3-4 多摩信用金庫本店2階
お問い合わせ|042-526-7788(たましん美術館)

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