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Boundary-less colors 小野仁美インタビュー(地域貢献スペース/立川)

更新日:12月3日

多摩信用金庫本店2階ギャラリー(地域貢献スペース)では、小野仁美による個展「Boundary-less colors」を2024年11月29日(金)まで開催しています。

出品作家の小野さんに、作品制作と展示におけるこだわりや、制作のプロセスなどについてお聞きしました。


(聞き手・文:たましん美術館学芸員 村山)





――経歴を拝見しましたが、武蔵野美術大学で油絵を学ばれたのですね。入学前から油絵を描いていたのですか?


そういうわけではないのですが、小さいころ遊び道具として絵を描く道具をもらって、漠然と絵が好きになり、これからも描き続けたいと思って美大を受けようと考えました。予備校に通い始めたときに、性格的にデザインよりも油絵の方がよいのではないかと言われたことがあって。最初はデザインに憧れたり少し気になったりしていたのですが、油絵の方がペインティングの要素が強いと思い、油絵にしました。


――ペインティングの要素とは具体的に何ですか?


絵具を使ってマチエールを作ったり、厚く盛り上げて描いたりなど、物質的な表現ができるということです。デザインだと平面とか立体とか、いずれはデジタルな表現にもつながるような基礎を学んでいくのだと思いますが、私がやりたいこととはちょっと違うと思いました。当時は油絵具の盛り上がったテクスチャーが好きだったり、にじみが好きだったり、色とか質感とかを使って、物質的な表現ができたりするのが好きで。自分以外からの注文ではなくて描きたいものが描けるという点も自分が楽しく感じた要素だと思います。


――ここに展示されている作品には、油絵具を使っていませんね?


今は、油絵具は使っていないです。学部の3年生くらいから使う画材はアクリル絵具や水彩になり、支持体は綿布とかポリエステルとか、今では絹布も使うようになりました。最初は綿布もよく使っていたのですが、もっと布の透明感とかにじみ方とか、スムーズなグラデーションが出るような表現とかが欲しいと思ってポリエステルを試してみたり、それだと化学繊維だから素材としての強度が少し弱いため、支持体としての強さが欲しい時には天然素材の絹を教えてもらって試してみたりしています。


――このような表現にはどうやって辿り着いたのでしょうか?


武蔵野美術大学では、自分が通っていたころは3年からコースが分かれ、それが学生によっては油絵具以外の画材を使ったり、映像や立体など表現の幅が広がるきっかけになったりもするタイミン グで、自分は現代美術寄りの方を選び、いろいろな素材や表現を試したのですが、その中で「にじみ」とか「ぼかし」とかが使えるアクリル絵の具が素材として合っているかなと思って使い始めました。具体的なきっかけはなかったのですが、自分が表現したいことを考えた時に、水面を見た時の視線の移ろいだったり、水面に反射する光と水の底から見えてくる像の映り方だったりの方が、 具体的なものを描くより向いていると感じるようになって。視線の流れやうつろい、ぼかし、際(きわ)、そういうものを使って空間を作れないかと考えています。


――表面に、布の継ぎ目が見えているものが印象的です。


布の幅が決まっているので、(木製パネルの方が大きいと)継ぎ目ができたり、地の部分が出てしまったりするのですが、(はみ出した部分の)木製パネルに直接描くと布との違いも生まれる。布のほつれとかゆがみとかも、場合によっては気に入っていたりして、残してあげようかなと思うこともあります。コントロールする、しないを考えるのも自分の中で楽しみでもあって。コントロールしない方が自由な感じが残せる、と思うこともあります。


――もう少し制作方法を教えてください。


パネルは注文して、ヤスリをかけて下地材を塗った上にラフに着彩し、乾いたら上から(薄く透けるような)布を置き、さらに水を含ませたり絵具をたらしたりして画面を作っていきます。下の像はどんどん見えなくなるけど、見えたり見えなかったりも表情になって。パッと見てどの層に描かれているか分からなくなったりします。パネルを注文した時点で外形は決まりますが、描く時にその中で起きる現象と対話するように制作します。あまり自分のしたいことを前面に出してしまうと幼稚になると思っていて、程よく自然な感じで、絵として状態がよくなるように探っていきます。 絵具が濁りやすかったり、くすみやすかったりしますが、スカッと色が出ている部分が視界に入った時には嬉しくなります。


――当ギャラリーを知ったきっかけ、展示を企画した経緯を教えてください。


一昨年、子供が生まれたのですが、そろそろ展示できるところを探したいと思い、ネットで見つけて応募しました。前から武蔵野美術大学の方々が発表していたり、立川に来る機会もよくあったりして、この場所のことは知っていました。親近感もあったので、展示出来たらいいなと思いました。


――実際に当ギャラリーで展示することになって、どのように感じましたか?


開館時間が朝8時から夜9時までと長いので、時間帯によって見え方が変わると思って楽しみでした。私の作品は絹やポリエステルといった布に描く作品がほとんどなので、窓のないホワイトキューブよりも、自然光が当たる空間の方が合うのではないかと思っています。ここではちょうど水面が見えるので、噴水を見ながら作品も見ていただけるのではないかと。背面にガラスがあって木材の柱がある点もよかったです。学生の頃に窓に作品を吊るしたこともあったので、その時のことを思い出して楽しかったです。


――最近はインターネットで作品を発表する人も多いですが、実際の会場で展示することは必要だと思いますか?


私自身、インスタに作品を発表することもありますが、私の作品は写真に撮ると色の調整をするのが難しく、質感も変わってしまうので、実物を見てもらうのが一番楽しいのではないかと思っています。


――タイトルも、とても気になります。


タイトルを考えるのは作品が完成してからで、すごく時間がかかります。思いついた言葉からネットで類語を探ったり、直接的な表現よりも、今まで知らなかった言葉だけど良いなと思ったものを選んだりします。


――いくつか作品を紹介させてください。



「透き間」:最近作った作品です。パネルの下地を作った後、この水が弾いたような部分をガッシュで作っておいて、乾いたところに布を被せ、さらにその上から絵具をにじませています。 例えば緑色を作っておいて全体に点々と配置していくような感じで。余白を取ることが難しか ったです。




「汀(みぎわ)i」:これを描いていた時にはちょうど木漏れ日がかかっていました。汀という言葉はネットで見つけていいなと思い、個展のタイトルにも使いました。(左上の方に)布の端のほつれや、針孔なども見える形で、(その左側は)木製パネルの地が出ているところに着彩して います。



「煙火の癖(へき)」:下地に鑢(やすり)をかけてから布を湿らせて滲みを作りました。固まってきたところに水を流して、動きのある画面になっています。ちょっと絵具のラメのようなメタリックな成分が流れていて、部屋の中で見るとキラキラして見えます。夜の暗い時間になると、光って見えるかもしれません。



「水脈」:絵具が半乾きのところに、さらに水で湿らせています。絵具の色によって粒子が違うため、侵食し合 い、せめぎ合うような形で模様が生まれます。どの色がどういう作用をするかは、何となく経験値としてありますが、分からないところもあるので、入れる時には思い切って大胆に。



「日暮れの空気」:少し前の作品なので、絹が他とちょっと違うかもしれません。2枚重ねて、モアレが強く出ています。



「閃光」:パネルではなくて、木枠に綿布を張っています。ノリが付いていない生地に下地を塗って作っています。当たった感じが柔らかいので筆のストローク(動かした痕跡)が残っています。


――最後に、最近の変化や、今後取り組みたいことを教えていただけますか。


以前は輪郭や際を描いたものが苦手で、にじんでボンヤリとしたものが多かったけど、最近はくっきり見える表現も取り入れられるようになってきているので、意識がおおらかになってきたかもしれません。今後も土台は変えないと思いますが、展示したいと思える場所を探すのが課題のひとつです。自分の作品に合うような、こういうパブリックな空間でも展示したいと思っています。



――本日はお時間をいただき、ありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしております。


インタビュー実施日:2024年11月16日

 

小野仁美 個展 Boundary-less colors

会期|2024年10月21日(月)〜11月29日(金)

利用可能時間|午前8時〜午後9時

入場料|無料

会場|多摩信用金庫本店本部棟2階ギャラリー(地域貢献スペース)

         〒190-8681 東京都立川市緑町3-4 多摩信用金庫本店2階

お問い合わせ|042-526-7788(たましん美術館)



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